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世界のカレー大辞典
(インド亜大陸のカレー編
 ■インド亜大陸のカレーについて
元来、インド地域の人々は、自分たちの料理を「カレー」とは呼びません。インド固有の言語には「カレー」という言葉はないのです。カレーという呼称は、旧宗主国のイギリス人がインド料理をカレーと総称して世界に伝えたことがおもな理由で、ヨーロッパ人があてはめた言葉だったのです。インド伝統医学アーユルヴェーダのスパイスの効能を活かした「病気は台所で治す(医食同源)」という理念のもと、インドの食事はスパイスをふんだんに使うのが当然であって、広大な国土の多種多様な地域性や民族性に培われた、ひとことで言い表せないほど奥深いものです。よって、インド人に向かって「毎日カレーを食べていて飽きないのか?」といった問いはナンセンスであり、「毎日食事して飽きないのか?」と聞くようなものかもしれません。また、日本のインド料理レストランの厨房を覗いてみると、一見インド人ばかりと思ってしまいますが実は、インド、バングラデシュ、パキスタン、ネパール、スリランカなどインド亜大陸出身のさまざまな国々の料理人が働いています。本国の北インドでは絶対にメニューに無いビーフカレーがあるのも、バングラデシュなど牛肉食べる地域のコックが働いているから成り立つのかもしれません。インド亜大陸それぞれの地域の特色を順にみていきましょう。
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1. 北インドのカレー
北インドのカレーは、スパイスの栽培や円筒型の土窯タンドール遺跡などから、インダス文明時代からカレー文明が存在したことが見てとれます。これは、ムガール帝国の侵略などといったイスラム文化圏の影響が大きいと言われており、ムガール帝国の宮廷料理として、中央アジアやペルシャの食文化が持ち込まれました。これらの宮廷料理の影響を受けたレストランスタイルでは、ナンを主食とし、肉類とカシューナッツなどのナッツ類や生クリームなどの乳製品のペーストを用いる濃厚でまろやかなカレー料理が多く、スパイスにはガラムマサラが使われるのが特徴です。但し、現地の家庭料理は菜食料理が多く、タンドールを持たない家庭の多くでは、フライパンで焼けるチャパテが主流のようです。ヒンズー教徒が多いことから牛肉は料理に使われません。

2. 南インドのカレー
インドの面積は3,287,263キロ平方メートルと世界第7位の広さですから、インドの北部と南部では気候や文化も大きく異なっています。食文化も異なっておりにも表れていて「カレーとナン」という一見日本ではポピュラーな組み合わせは、小麦が主食の北インドのスタイルです。カレーも濃厚なタイプが主流であるのに比べ、南インドのカレーは水分が多くサラサラしています。使うスパイスや、香り付け方法もまったく異なるのです。主食は米が中心で、スパイスや食材は、マスタードシード、カレーリーフ、タマリンド、ココナッツミルク、魚介類、オクラやゴーヤを始めとする野菜類、豆類などが使われ、煮込まずに短時間で素材を活かしてシンプルに仕上げます。北インドのカレーよりヘルシーな感じがします。しかし、ヒンズー教徒以外も多いことから、意外にもビーフカレーも食べられています。
 
3.東インドのカレー
東インドは、カルカッタ周辺の「ベンガル料理」がよく知られています。米を主食に大きな河川が多いことから川魚をよく食べるので、比較的日本とよく似た食文化と言われ、ベンガルフィッシュカレー「マチェル・ジョル」を始めとする魚介料理が有名です。ナッツ類の代わりに、けしの実やごまを多用し、マスタードオイルをよく使用します。そして、西洋のコース料理のように前菜・メイン・デザートと順番に料理が出されるように、ゴーヤなど苦味のある野菜を最初に食べてから、豆、野菜、魚、肉、デザートの順番に食べる習慣があるのも特徴的です。ヒマラヤ山脈に近い北東部では、チベット・モンゴル・ネパール系の少数民族が暮らし、蒸し餃子のモモなど独特な食文化が見られます。
 
4.西インドのカレー
西インドでは、インドのほぼ中央に位置することから北インドと南インドの双方から食文化が幅広く伝わってきました。素材を活かした料理が好まれます。ゴア州では、約450年間ほどポルトガルに占領されていたことから、土地で採れる新鮮な魚介やココナツ、スパイスをベース にした、ポルトガル料理の影響が見られます。ゴア料理で有名なのがポークビンダルーです。ポルトガルでは豚肉を白ワイン・ワインビネガー・ニンニク等に漬込んでから煮込むのが特徴ですが、ゴア料理はさらに数種類のスパイスを加えてアレンジされており、辛味と酸味の味わいが特徴的です。
 
5.スリランカのカレー
スリランカは、隣国の南インドと位置的に近似していることから食文化は似てます。基本的にココナッツミルクが入っているので、南インドには比較的近いかもしれません。大きく異なる点は、特有のスパイスを使うなど独特の風味、そして、日本のようなモルジブフィッシュと呼ばれる鰹節を用いる料理文化があり、魚介と米を使った料理、これは日本食文化と多くが通じていると言われます。米も種類は多く、使い分けされています。カレーはサラサラで、ココナッツミルクとモルジブフィッシュが欠かせなく、野菜や豆を中心とする、アーユルヴェーダ発祥の地ならではの医食同源が下地となっております。そして、「混ぜて楽しむ」という点も特徴で、食卓には、カレーが数点と、主食、おかずが並べられ、辛いカレーとマイルドなカレーを混ぜたり、主食とおかず、カレーを混ぜて食べたりします。
 
6.ネパールのカレー
ネパールは、中国の北部と南インドに挟まれた場所に位置していますので、食文化にも中国、インド、チベットの影響を受けています。もっとも一般的な食事はダール・バートと呼ばれる、豆カレー汁と米のぶっかけご飯です。庶民の食堂では、これに野菜のカレー風煮込み・タルカリ、ちょっと贅沢な向きにはカレー味の肉が数ピースが付きます。これらは、ヒマラヤよりインド側の話で、チベット側では蕎麦粉を使った蕎麦がきや麺が一般的です。カレーはチキンやマトンも食べられています。
 
7.パキスタンのカレー
アラビア湾に面し、東側をアフガニスタンとイラン、西側をインドに接するパキスタンは、アジアや中東地域の影響を色濃く受けながらも、独自の食文化を形成しています。香辛料をたっぷり使う料理が多いのもパキスタン料理の特徴。また、イスラム教国であることが食文化にも大きく影響しており、豚を食べない代わりにマトンを中心に鶏肉や牛肉がよく食べられています。パン類やプラオ、ピリヤニなど米類の料理も種類が豊富で、ティッカやケバブなど料理も多彩です。スパイスを大量に使うというのはアジア圏のカレーではお馴染みですが、トマトピューレを使って煮込むのは、アジア圏のカレーでは珍しいといえます。
 
8.バングラデシュのカレー
バングラデシュの肥沃な土地柄、野菜を多く使い、大きな川の河口では川魚の水揚げも多く、バングラデシュのカレーは、知名度が低いもののインドのカレーに比べてマイルドで、日本人にはこちらの方が食べやすいのではないでしょうか。日本にあるバングラデシュ料理店では、「豊かな自然に恵まれたバングラデシュの食材の豊富さ」を売りにして、料理の「マイルドさ」をインド料理との差異化に用いられるケースが見られます。なお、日本のバングラデシュ料理屋のメニューには存在する、シークカバブやタンドリーチキンは、本場バングラデシュで食べられることはまずありません。カレーも日本人に合わせドロッとしたものが多いですが、本国では水分が多いさらっとしたものが主流です。
 
 
 「2.東南アジアのカレー編
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